役所も機能不全で役立たず マイナンバー

マイナンバーについての社外からの収集は、さらに多岐にわたる。たとえば「借り上げ社宅の大家さんには高齢者が多く、制度をどこまで理解していただけるか」「退職者への通知や、社外の人への報酬支払いに際して、個人番号収集が問題なくできるかが心配」といった声が上がった。

 マイナンバー制度に精通する影島広泰弁護士によれば、外部からの収集が最も難しいのは、建設業界の担当者だという。労働者を雇用しないで自分1人で営む「一人親方」もいれば、各現場の作業を担う「日雇い労働者」もいる。頻繁に作業現場が変わる日雇い労働者が、毎回個人番号を提示し、身元確認をさせてくれるのか。一日限りで働く外部労働者に対するガイドラインは、本稿執筆の12月18日段階でまだ示されていない。

●直前に方針が変わることもあり、専門家への問い合わせが続く

 今回の調査では、マイナンバー対応に要した初期費用も聞いたが、半数近い企業が「50万円未満」だった。

回答者には大企業も多いが意外と定額に収まっている印象だ。
この初期費用には、新たに人材を採用したような人的費用は含まれないが、93.5%の企業は事務取扱部門の人員を増やしていない。
新たな業務が増えるなか、費用を抑えて現有戦力で対応するようだ。

 その大きな理由としては、情報漏洩に関する罰則規定が厳しく、故意ではなく不注意による漏洩でもレピュテーション・リスク(企業評判の低下)につながるなど、取り扱いに関するデリケートな一面が挙げられる。
企業現場をさらに悩ますのは、当初の通達によって進めてきた対応が直前になって変更されることだ。

 たとえば大半の企業で、従業員に12月の給与明細書に同封される源泉徴収票には、当初は個人番号の記載義務があったが、10月2日に所得税法施行規則が再改正されて、その記載義務がなくなった。事務作業に追われる現場にとっては朗報だが、「簡素化する方向転換は歓迎するが、元々無理があるルールについては方向転換を早く決定すべき」(大手製造業の部長)という現場の苛立ちもある。「企業の対応疲れ」も気になる点だ。

 このような方針変更も目立ち、「導入直前のこの時期になっても、専門家のもとには企業の担当者からひっきりなしに問い合わせが入っています。個別の取り扱いを役所に聞いても明確な答えが返ってこず、なかには厚生労働省と国税庁で見解が異なる回答もあるからです」(『プレジデント』編集部の面澤淳市氏)。

 国は企業に対して厳格な取り扱いを指導しており、なかには「情報漏洩のリスクを考え、インターネットにつながないマイナンバー専用パソコンを購入した」企業もあるが、企業現場からは逆に「行政のセキュリティー対策が心配」と指摘する声も目立った。