暴力団介入“通行料”名目で金銭要求も…

道路の「迷子ちゃん」、全国でトラブル 暴力団介入“通行料”名目で金銭要求も… 

 所有権移転がなされないまま、私有地に公道が設置された「道路内民地」をめぐり、各地でトラブルが相次いでいる。不動産業界では「迷子ちゃん」とも呼ばれ、4千筆を超える該当区域を確認した県もある一方、多くの自治体では、実態把握を先送りしているのが現状だ。
近年は暴力団が介入して“通行料”名目で金銭を要求するケースもあるといい、識者からは早期の解決を促す声が上がっている。

 「行政にだまされ続けてきた」

 兵庫県姫路市の食品販売会社社長、福岡久和さん(68)は憤りを隠さない。登記上、少なくとも45年間にわたり、自社の隣を走る県道の一部が「宅地」扱いとされていることを知らないまま、計300万円以上の固定資産税を納めさせられていたのだ。

 平成25年、福岡さんが会社建物の改築に伴って土地を測量し直したところ、この県道の一部約140平方メートルが福岡さんの所有のままだったことが判明。しかし、この土地の固定資産税として、年間約8万円が徴収されていたことが分かったという。

 福岡さんからの問い合わせで、県姫路土木事務所が道路内民地だったことを確認。過去5年分の固定資産税が還付されたが、それ以前の誤徴収分は民法上の時効にあたるとして戻ってこなかった。

 一方、県側は「契約書類は保存されていないが、周辺の開発状況などから売買が完了していると推定される」として、無償寄付の形で所有権移転に応じるよう要請。福岡さん側はこれを拒否し、主張は平行線をたどっている。

 ■実態把握先送り

 日本土地家屋調査士会連合会によると、道路内民地は主に、戦後の高度経済成長期の道路建設で生じた。当時すでに所有名義人が死亡していたり、住民が共同管理する土地で権利関係の整理が困難だったりしたが、なし崩し的に道路整備が先行されたとみられる。

 道路内民地の総数を把握している自治体は少ないが、所有者から所有権確認の訴訟を起こされ、和解金を支払った経緯がある埼玉県では全県的な調査を実施し、17年度に4276筆を確認した。

 その後担当者が所有者と連絡を取るなどして、現在は2千筆以下にまで減少した。

 土地の所有者や境界を調査する「地籍調査」の進捗(しんちょく)率が、全国平均の51%に対し、京都府が全国最下位の8%にとどまるなど関西では低調といい、相当数の道路内民地が未把握となっている可能性がある。

 現在まで放置されてきた背景として、ある自治体担当者は「実務上の問題が起こることは少なく、『寝た子を起こす』必要はない」と打ち明ける。道路法は、すでに供用されている道路について「私権を行使できない」と定めており、所有権の有無にかかわらず道路の撤去などを求められることはない。

 ただ存在が明らかになると、埼玉県のように訴訟に発展する恐れも出てくるため、登記の適正化には及び腰となっているのが実情だ。

 ■寄付要請を拒否

 和歌山県白浜町の県道でも複数の道路内民地が確認され、県は地権者たちに土地の寄付を要請。しかし「無断で拡幅工事をされた」と拒否する人もおり、解決の糸口は見えない。

 道路内民地の所有権が暴力団に移り、トラブルに発展するケースも全国各地で起きているという。同会によると、水道やガスの引き込み工事に絡んで道路内民地を通るという理由で600万円を請求される被害もあったという。

 同会の岡田潤一郎副会長は「名義移転を放置すると、相続を経て所有関係が複雑化する。行政は早期に道路内民地の調査を進め、解決を図るべきだ」と話している。