労働基準法の改正で何が変わるのか?
今回の労働基準法改正では、7つの項目について改正が行われます。
これらのうち、下記「1」は2019年(平成31年)4月から、残りの「2〜7」は2016年(平成28年)4月に施行される予定です。
それぞれの改正点の概要は以下のとおりです。
1.中小企業でも月60時間超の残業は賃金割増を50%以上に
大企業の場合、「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を50%以上にする」ことが定められていますが、これまでは中小企業に対しては猶予措置が取られていました。
この猶予措置が撤廃され、中小企業であっても50%以上の割増賃金率が適用されるようになります。
2.長時間労働についての助言指導強化
長時間労働に対する助言指導にあたり、「労働者の健康が確保されるように特に配慮しなければならない」旨が規定されます。
3.有給休暇取得の義務付け
10日以上の年次有給休暇が与えられている労働者に対して、そのうち5日を年次休暇の付与後1年以内の期間に時季を定めて与えることが、使用者に義務付けられます。
なお、労働者が時季を指定した場合や、計画的付与によって取得された有給休暇の日数については、指定の必要はありません。
4.労働時間などの改善のための取り組みを促進
企業単位での労働時間などの設定改善に関する労使の取り組みを促進するため、企業全体を通じて設置する労働時間等設定改善企業委員会の決議をもって、年次有給休暇の計画的付与等に係る労使協定に代えることができるようになります。
5.フレックスタイム制の精算期間上限を延長
フレックスタイム制では、1か月の「清算期間」における総労働時間を定め、その範囲内でそれぞれの日の労働時間を柔軟に設定できます。この精算期間の上限が現在の1か月から3か月に延長されます。
6.企画業務型裁量労働制の対象業務を追加
企画業務型裁量労働制の対象業務に「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」が追加されます。また、対象となる労働者の健康を確保するための措置を充実したり、手続きを簡素化したりといった見直しが行われます。
7.高度プロフェッショナル制度の創設
職務の範囲が明確で、一定の年収(少なくとも1,000万円以上)の労働者が、高度の専門的知識を必要とする業務に従事している場合、健康確保などの措置を取ることや、本人の同意や委員会の決議等を得ることを条件に、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定の適用除外とできます。
なお、制度対象者の在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その労働者に必ず医師による面接指導を受けさせなければなりません。
改正によって中小企業が受ける影響は?
これらの改正のうち、中小企業にもっとも影響が大きいのは、1つ目の「月60時間超の残業に対する賃金割増」ではないでしょうか?
もし、月60時間を超えて残業をしている従業員を数多く抱えている企業の場合、割増分の人件費が改正法の施行後に一気にのしかかることになります。
一人ひとりの残業時間が長くなるほど人件費が上昇するとなると、それを抑えるには各従業員の残業時間を月60時間未満にする必要があります。しかし、現実的な業務量を考えるとこのままでは難しい、だからといって新しく人材を採用する余裕もない……と頭を悩ませている企業も多いかもしれません。改正によって中小企業が受ける影響は、決して小さくはないのです。